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蒼い闇

2007.10.15.(月) 16:46

ダイルビ。
雰囲気エロに挑戦して見事に玉砕してみました。


続き


ぽかりと眼を開くと、室内は青白い闇で満たされていた。

見慣れぬその蒼い世界にパチパチと瞬きを繰り返す。ゆるりと視線を巡らし、彼は漸く納得した。まだ、夜なのだ。
夜は暗いものだと思っていたのに。
ぼんやりと見回した視界はまるで部屋ごと海の底に沈んでいるかのように蒼々としていた。暗いのに、不思議と明るい。窓から差し込む月の光が柔らかく室内に広がり、少年の良く知る只の闇をこの不思議な色彩へと染め変えているようだった。安らげる場所であった筈のこの部屋が、まるで初めてきた場所へと変貌してしまったかのような錯覚に捕らわれ、少年はこみ上げてくる居心地の悪さを誤魔化すかのように、ころり、と寝返りを打った。

途端、目に入った光景に思わず息を呑む。

蒼い光の中、青年が静かに横たわっていた。
月光に青白く照らし出されて眠るその人は、まるで青磁の彫像のようだった。いつもは柔らかく微笑む琥珀の瞳も今は瞼に遮られて伺うことは出来ず、もともと白いその肌が闇の色を際だたせる。微かな蒼の光に照らされて銀糸のように鈍い光を放つ藍白の髪も、凛々しく整ったその面差しも、今はただ、尚更作り物めいた印象を与えるだけだった。
目の前の青年の生気を感じ取ることができず、不意に少年は不安に駆られた。
思わずその手を彼の頬に伸ばす。そんなことが起こるはずもないと分かっているのに、まるで彼が蝋人形になってしまったかのように思われて、確かめずにはいられなかったのだ。

ひたり、と指先が彼の肌に触れる。
指先にやんわりと弾力を感じ、それが作り物の硬質さでなかったことに少しだけ安堵する。
しかしその頬はすっかり夜気に熱を奪われていて、只でさえ体温の高い少年の指先では彼の熱を感じ取ることは出来なかった。不安に後押しされるように、今度はそっとその掌で青年の頬を包む。冷え切った彼の頬は、少年の掌からじんわりと熱を吸い取って行くようで、もどかしくなった少年は、今度は思い切ってその顔を寄せ、頬に頬を合わせてぎゅっと青年の首を抱き寄せた。

「……ん……」

耳にかかる吐息にぞくり、と項が粟立った。
腕の力を緩め、青年の顔を覗き込むと、月光に青白く染まる長い睫毛がふるり、と震え、その下から今まで隠されていた濡れた琥珀がゆっくりと姿を現すのが見て取れた。目覚めたばかりでまだ焦点も合わぬその瞳に自分の姿が写り込むのを認め、少年の胸はとくり、と一つ大きく脈打った。
「……ルビー、くん……?」
いつもは甘く滑らかに響くテノールが、今は掠れた音で己の名を呼ぶ。
スローモーションを見るかの如くゆっくりと動いたその唇に目を奪われた。
ああ、生きていた。
沸き上がる安堵感に少年は知らず詰めていた吐息を零し、再度青年の頬をその両の掌で包み込んだ。目の前には彼の唇。今、この唇が動いて、確かに自分の名をかたどったのだ。ここにあるのは彫像ではなく、間違いなく生命の宿った己の愛しい人。親指を伸ばしてその唇にそっと触れた。薄く見えるのに、指にはふっくりと柔らかなその感触を確かめるようにしてゆっくりとなぞる。
「……眠れないの?」
掠れた声が暖かく湿った吐息と共に少年の指先をくすぐる。その感触は不可解な熱となって指先から全身へと少年の体内に波紋の様に広がっていった。その熱の波に呼応するかのように下腹部から疼くような感覚が生まれる。背筋を這い登ってくるその落ち着かない感触に、少年は喘ぐ様に深い呼吸を繰り返した。彼の唇から目が離せない。
「……どうしたの……?」
青年の腕がそっと腰に回される。そのまま優しく抱き寄せられ、二人の身体が密着した。青年に触れた部分から思い掛けず与えられた穏やかな彼の体温に、少年はビクリと身体を震わせた。そのささやかな熱は少年の中でさざめいていた波紋と混ざり合うと、まるで化学反応でも起こしたかのように身体を芯から焦がす強い刺激へと変じて四肢に広がり、少年を戸惑わせた。先ほど彼に触れた時には自分の熱ばかりが奪われたのに、何故。
身体の奥底からくすぶる炎に浸食されるようないたたまれなさにさいなまれつつ、それでも少年は青年の体温から逃れたいとはかけらも思いつかないでいた。寧ろ、足りない。もっと、欲しい。彼の熱が。
「……ダイゴ、さん……」
思わず呟いた青年の名は喉に絡みすっかり乾いて掠れてしまっていて、音として成立したとはとても言えないようなものにしかならなかった。しかし、ただ弱く空気を震わす吐息のようなそれを、それでも青年は聞き取ったのか、うん、と応えて少年の身体を更に抱き寄せ、柔らかく包み込むようにして抱き締めてくれた。
「……寂しくなった、の?」
再び目の前で静かに動いた唇に、少年の動悸が加速する。先程までまるで青磁で出来た作り物のようだったそれは、青年の目覚めと共に緩やかに血色を取り戻し、今は薄紅にほんのりと色づいて見える。その色合いは親指から伝わる柔らかさ暖かさと相まって、えもいわれず蠱惑的な気配を帯びて少年を魅了した。

堪らず、彼はその唇に己のそれを押しつけた。
触れ合った途端、びりびりと痺れる様な衝撃が背筋を駆け抜ける。薄い皮膚は彼の唇の感触を敏感に感じ取り、その熱に自分の唇も燃えているんではないかと思う程だった。しかし、その刺激も熱さも決して不快なものではなく、寧ろ目が眩むほどの充足感を少年に与えた。彼は夢中になって、押しつけるように、また時に青年のそれをはむようにして繰り返しその触れ合いを求めた。
急激な少年の求めに驚いたのか最初はびくりと身を強ばらせた青年も、やがて自らも進んで少年に応え始め、何度もついばむようにしてその唇を触れあわせた。片腕で少年の身体を抱き、もう片方の手で頬を撫で、髪を撫でる。青年の大きな手で優しく触れられるその感覚はうっとりするほど心地よく、少年は徐々に身体の力を抜き、くったりと彼にその身を委ねていった。
「……大丈夫だよ」
大好きなテノールが耳元で詠うように囁く。
「僕はちゃんとここにいるから。……ルビー君の側にいるから」
柔らかな口付けはやがて唇だけでなく、頬へ、瞼へ、こめかみへ、場所を変えて幾度となく繰り返され、その度に少年の中に燻っていた不安を少しずつ吸い取って行った。
「……安心して、おやすみ」
優しい囁きが鼓膜を震わすのと共にそっと暖かな口付けを唇に贈られた、と感じたのを最後に、少年の意識は心地よい眠りの闇へと溶けるように沈んで行った。
瞼の裏に見えるその闇は、もう蒼くはなかった。


*****


少年の熱い吐息が徐々に緩く細くなり、やがて穏やかな寝息に変わってからも、青年は彼を柔らかく抱き締めたままゆっくりと髪を撫でるその仕草を暫くやめようとはしなかった。そのままゆったりと時が流れ、少年が深い眠りに捕らわれた事を確信して、青年は漸くその手の動きを止めた。脱力するように、ほ、と一つ吐息を零す。
「……ルビー君……もしかして、僕に…欲情、して…くれたのかな……」
嬉しいんだけど、と零すように一人ごちて改めて少年を抱き寄せる。柔らかな髪に頬を擦り寄せるようにして顔を埋めるとかすかに甘い匂いがするような気がして、くらりと軽い目眩を覚えた。
「こんなに熱烈に求められて……それなのに手出しできないなんて、一体なんの罰ゲームなんだか……」
苦笑しながら溜息を一つ。それでも手放せない腕の中の温もりに、今夜果たして自分は眠ることができるのだろうかと疑問を覚えつつ、青年もそっと目を閉じた。

朝はまだ、遠い。


Fin.
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雰囲気エロって難しいですね。頑張っても頑張ってもさっぱりエロくならなくてどうしようかと思いました。何もしてないのにエロ臭い文章に憧れてなりません。
ちなみにこのダイゴさんは清いダイゴさんです(笑)。まだ手を出してません。
キスもバードキスまで。ヘタレなんだか漢なんだか(笑)