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チャールズ皇太子の服装術──プリンス・オブ・サステイナビリティを超えてプリンス・オブ・ジ・アースへ【HACK 07】

2021.05.21.(金) 11:40

「買うなら一度だけ、良いものを買え」をモットーに、高品質のものを直し使い続けるチャールズ皇太子。いま改めて注目を集めるチャールズ皇太子の服装術を、服飾史家の中野香織さんが論ずる。

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近くで見つけた花を挿すように、さり気なく胸元にブトニエールで花を咲かせるのはチャールズ皇太子の定番テクニック。

右を向いても左を向いても、サステイナビリティの大合唱である。
サステイナビリティがこのような絶対正義になるずっと前から、むしろ変人扱いすらされるマイノリティとして、必要性を唱え続け、実践していたプリンスがいる。
イギリスのチャールズ皇太子である。

半世紀も前の1969年からプラスチック問題を語り、バブル全盛期だった1980年代に有機農業を始め、1987年に作ったアンダーソン&シェパードのツイードコートを30年以上経った今も着続ける。つぎはぎがほどこされたジョン ロブの靴はあまりにも有名だし、かけはぎのあるグレーのスーツが目撃されたこともある。モットーは「買うなら一度だけ、良いものを買え(Buy Once, Buy Well)」。選び抜いた良いものをいったん買ったならば、ケアをして長くつきあう。プリンス・オブ・サステイナビリティの称号は伊達ではない。

コートは上記のツイードとキャメルを着回し、自分のスタイルを「止まった時計」と称するチャールズ皇太子は、サステナ全盛の今、慎ましさと贅沢感を同居させるスタイルアイコンとしての存在感を増しているが、実は抜群のファッションセンスの持ち主でもある。

変わらぬダブルのスーツを着続けながらも、ポケットチーフ、ネクタイ、そしてブトニエールのアレンジによって、抑制と華が同居する紳士の粋を表現し続けている。時に淡い中間色を選ぶことで、落ち着きと活気を同時に感じさせる。カントリーでは伝統の重みと実用の軽やかさを兼ね備えた古典的なスポーツスタイルで魅了する。生真面目になりすぎない、風通しの良い雰囲気もあいまって、紳士の装いの現代的な基準を示し続けている、いわばジェントルマンスタイルの旗手である。

叔母のマーガレット王女のようにファッショナブルなサークルには連なっていないけれど、ファッションに関心の高い人々の意識においては、常に皇太子は最前線にいる。イギリス版VOGUEの編集長、エドワード・エニンフルもチャールズ皇太子の動きには注目し、昨年11月には皇太子のサステイナブルファッションに関する貢献についてのビデオインタビューを行っている。

とはいえ、チャールズ皇太子は、大伯父エドワード8世(ウィンザー公)のようなスタイルのカリスマとして名を残すつもりは毛頭ないだろう。むしろ、ファッション業界を保護し、支援することに、皇太子は大きな力を注いでいる。




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